第7回 「スキルの科学に関する学際的検討」研究会 議事録 記録:寺本 日時  : 2002年11月16日 10:20-16:30 会場  : 国際高等研究所セミナー2 参加者 : 岩田,野村,椹木,高谷,馬野,小野里,川野,松尾,橋爪,       寺本,田所 1.エキスパートジャグラーの技と初期学習過程[橋詰先生]  現在,知覚運動課題(Perceptual Motor Skill)に関する研究を行っている. 具体的には,カスケード・ジャグリングの分析を行っている.これは,比較的 短い時間で学習できる課題である.従来の運動学習の研究はパフォーマンスの 評価が多いものの,学習過程での,人間の動きの変化の分析に関するものは少 ない.さらに,エキスパートの技の方向に向いているかどうかの評価のために, エキスパートの技の分析も行っている.  熟練者および10日間練習を行う学習群について,ジャグリング中の手の周期 時間および運動軌跡などを,被験者の自由なテンポ,最高速度,5つの玉での 課題,について調べた.  結果として,初心者は,キャッチやスローなどのイベントが分かれているが, 熟練者は,両手保持時間,頂点からリリースの時間間隔が非常に短い.このよ うに,イベントを同時に起こせるのが熟練者の特徴である.  また,ジャグリングの空間構造についても,最高速度でのジャグリングと5 つ玉では,手の周期時間がほぼ同じでも,投げ上げの高さを大きく変えている. このように,空間構造を大きく変えられることも熟練者の特徴であるといえる.  ジャグリングの安定性に関しては,標準偏差をみても,エキスパートは,手 の周期時間,頂点からリリースの時間,頂点の高さ,の安定性が高い.  ジャグリングの学習に対して,以下の3つの段階を考えている.  ジャグリングの学習の第一段階では,安定したキャッチの習得が行なわれる. この段階では,ボールの頂点到達から,ボールキャッチまでの時間のSDが最小 となるり,落下してくるボールの知覚からボールをリリースしている.  ジャグリングの第二段階の特徴では,コンタクトの場所や時間を予測できる ようになり,タイミングの発見が行なわれる.このでは,タイミングの安定, 軌道の安定性→空間構造の安定,軌道全体の変移といったことが観察される.  ジャグリングの第三段階では,イベントの同期が計られる.方の動きとひじ の動きが同期してくる.これは,高度なジャグリングに向けた空間構造と時間 構造の変容と捉えることができる.特徴としては, ・リリースのタイミング ・キャッチ位置とリリースいい知の対象性 ・肩関節をした中心とした動き→肘間接を中心とした動き ・両手が滑らかなAnti-phaseで動く といったことが上げられる. Q.作業者の視線はどこを見ている? A.エキスパートはぼんやりとボールの二つの山の間を見ている.初心者はボー   ルを追いかけている. C.注意は並列化できると考えるかどうかによってもスキルの位置付けが変わっ   てくる. 2.課題のまとめの議論にむけて[岩田先生] スキル科学の提案と枠組みについて以下の2点について提案する. 1)スキルの科学の切り口(研究領域)について,知(本質),獲(獲得),   伝(伝承),創(創出)の4つに大まかに分けてはどうか? 2)議論の対象とするスキルの範囲としては,人・人工物およびそれらの融合   システムの個人および集団を主対象として,学習や創意といった創造力の   うち,洗練度が比較的高いものを取り扱うこととしてはどうか? 3.スキルの枠組みWG[小野里先生] ○研究アプローチのマトリックス 岩田先生の分類と関連するが,ここでは,スキル研究の目的として, スキルの知:観察や計測,実験などを通じてスキルの原理や構造を解明する. スキルの造:ロボットなどの機械よってスキルを実現する スキルの伝:スキルを有する人(あるいは機械)から別の有する人(あるいは       機械)へとスキルを伝える. スキルの創:これまでにない新しいスキルを創生する. の4つのカテゴリでとらえる考え方である.さらに,これらのカテゴリそれぞ れに対して,スキルをとらえる際の深さに関して, 結果:スキルの結果として発現されるものに注目 機構:スキルを発現しているメカニズムに注目 原理:スキルを生みだしている原理に注目 の3つのレベルを考えて,研究アプローチのマトリックスを導入した.このマ トリックスの上で,研究の仮説,研究の手段,研究の目的のそれぞれを記すこ とで,研究の相互の関連が明示されると考える. ○スキルの6つの軸 スキルの有する複雑な様相を整理するために,以下に挙げる6つの軸からスキ ルの異なる側面をとらえることを提案する. 目的:スキルが使用される分野,領域.応用や効用に着目.例えば,機械組み    立て,精密調整,楽器演奏,器械体操,など.【対象】に関連. 機能:スキルを持つ行為により何が実現されているか,という視点.例えば,    高速な分類,正確な位置決め,効率的な計画立案,など.【望まれる状    況】に対応する. 構造:スキルを発現している主体の構造に関する視点.感覚器,運動器,大脳,    道具など.【内部資源】ならびに【周辺資源】に対応する. 現象:スキルが発現している際のプロセスに注目する視点.例えば,手と操作    対象との間の力学的な相互作用の過程など.【インタラクション】に対    応. 環境:スキルの形成,伝承,発現などに関わる諸要因に着目.例えば,業務形    態,師弟関係,作業環境など.【外界】に関連. 熟達:ある主体の成長,衰退やスキルの獲得,熟達など,時間的な推移の過程    に注目. ○課題についての説明 本グループでは,重要な課題として,以下の4つを抽出した.   ・スキルを理解(定義)するための構造モデル   ・スキルの分類体系の確立   ・スキルにおける型の存在   ・スキルに対する評価  さらに,以下の5つの課題も,スキルの枠組みに対して検討が必要である.   ・スキルに関して既存の科学技術での分析(理解)可能性について   ・スキルにおけるイメージの役割に関する研究   ・これからの産業におけるスキルの必要性とその実現に関する検討   ・仮想作業環境によるスキル獲得の可能性に関する研究   ・人間におけるスキルと機械におけるスキル 4.スキルの本質WG[椹木先生]  技能や熟練を切り出したて解析の対象にするのは難しいという立場で研究を 進めている.スキルは,関係としてしか取扱えない部分があると思う.スキル をトップダウンに考えるのではなく,現場サイドからあがってくる具体的なタ スクからボトムアップ的に考えている.  熟練技能を論じる上で,道具,言語,運動,組織,共同行為,環境の6つと の関係として考えればいいと思う.そして,これら全てに関連するのが,内と 外のインタラクションという概念である. ○技能の「関係性」  熟練作業者は,外部からのパフォーマンスではかるのではなく,自分の視点 で外からのパフォーマンスの関係をみている. ○技能伝承の共同行為性  他者の行為を内部的に解釈しながら,事故の現実的行動によって補足し,共 同作業の絶えず進展する全体的ゲシュタルトとして伝承を捉える. ○NC加工の熟練者の視線を分析  技能伝承を考える上では,外部観察者,設計者,行為主体者のそれぞれの始 点を考慮する必要がある.具体的には,熟練者と初心者の注意配分を分析する 必要があり,意図との結びつきを考えなくてはいけない.外部観測可能な情報 から,注意の配分系列を可視化する研究を行なっている. ○自己の二重性  清水の指摘する,自己中心的自己と場所中心的自己の自己の二重性の概念は, スキルを考える上で極めて重要であると思う.すなわち,タスクを行なってい る自分を見ているもう一人の自分の存在がスキルの獲得において重要である. ○セミオーシス的共同行為(Joint Activity)  人間は意味解釈を行なえる点が特徴である.科学や工学は,人間による解釈 をこれまでは排除していたが,スキルには不可欠である.ここで,個々の解釈 は自閉系の解釈系であり,共同情報にはオープン,自閉系である.このような 状況で,共有情報を介した刷り合わせを行なっている. ○椹木先生研究課題 ・障害者のための福祉機械の設計:PDAによるナビゲーション ・社会性を考慮した自律分散システム:積載スケジューリング問題 ・リカレントネットによる運動観察からの意味生成 ・ロボットの遠隔操作のためのEID ・ものづくり行動場面における操作行動分析操作行動分析に関する工学モデル ・大規模複雑系のインタフェース設計 ・状況認識のシミュレーション(従来の直列的な状況認識モデルではなく,ご  み箱モデルのような中断だけのものをマネージしているのが熟練者である) このような個別のことをやっているのと,冒頭に述べた,6つの概念がスキル において,共通しているといえる.. 5.スキルの獲得過程WG[高谷先生] ○枠組みの全体像と各課題の相関図 スキルの獲得過程を解明するために科学的な方法論をどのように展開すれば良 いかという観点から,1)学習とメタ学習のメカニズム(馬野),2)身体的スキ ル獲得過程のメカニズム抽出(横小路,松尾),3)スキル獲得過程の観測問題 (高谷)等からのアプローチを試みることを提案している. ○各課題の説明 ・学習方法が変化する学習[馬野] ・運動学習における基本的動作生成とその変容-運動primitivesと最小化理論-  [松尾] ・スキルを知る[横小路] ・スキル獲得過程の観測問題における概念的枠組みの構築とその検証[高谷] 6.課題研究に向けての情報交換,意見交換 課題研究Aにむけて,採択については不明な部分が多いが,ひとまず準備だけ はしておく.小野里先生の素案に意見を送って欲しい.また,国際的な議論を 行うために,海外で有名な人を推薦してほしい. 7.今後の予定  次回,12/7日に,10・20〜12:30 構造グループの議論を行なう. 午後は,京都大学の吉川先生オーガナイズの工学アカデミー作業部会が開催さ れる.  また,1/25日 14:00から,畑村先生の講演を予定している. ☆ 寺本孝司 大阪大学 大学院 工学研究科 電子制御機械工学専攻 ☆ ☆ 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-1 ☆ ☆ e-mail: teramoto@mech.eng.osaka-u.ac.jp ☆